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名古屋高等裁判所 平成6年(行コ)24号 判決

愛知県安城市安城町宮地一三番地

控訴人

杉浦昌子

右訴訟代理人弁護士

桜川玄陽

東京都千代田区霞ケ関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

前田勲男

右指定代理人

西森政一

佐野明秀

大西信之

太田尚男

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、三四七万八四〇〇円及びこれに対する昭和六三年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠は、原判決四枚目裏三行目末尾の次に「被控訴人は本訴において右消滅時効を援用する。」を加えるほかは、原判決事実欄「第二当事者の主張」及び「第三 証拠」のとおりであるから、これを引用する。

三  当裁判所も控訴人の請求は理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決理由欄「一」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五枚目表一二行目の次に改行して左記のとおり加える。

「一 請求原因1及び2の事実(本件申告及び贈与税の納付)は当事者間に争いがない。」

2  同一三行目「一」を「二」に改める。

3  同六枚目表二行目「から、」から三行目末尾までを「ことは本件記録から明らかであり、したがって本訴は消滅時効完成後に提起されたもので、被控訴人が右消滅時効を援用したことは本件記録上明らかである。」と改める。

4  控訴人は、無効な申告に基づいて国税を誤納した者がその返還を求めるためには、国税通則法二三条の定めるところにより税務署長に対して更正すべき旨の請求をしなければならないが、これは税務署長が国税に関する納税義務の成立ないし適正な税額についての第一次的な判断ないし処分の権限を有するためであり、当該国税の法定申告期限から一年間又は税務署長から更正すべき理由がない旨の通知を受けるまでは、右の手続によらずに納税の無効を理由に過誤納金の返還請求をすることは許されないから、国税通則法七四条一項の「その請求をすることができる日」とは、過誤納税についていえば、更正の請求をすることができる期間を経過した日又は税務署長から更正すべき理由がない旨の通知があった日と解すべきであり、本件では昭和六二年分の贈与税の法定申告期限から一年を経過した平成元年三月一五日が消滅時効の起算日となると主張する。

よって、按ずるに、国税に関する確定申告書の記載内容の錯誤の主張は、その錯誤が客観的に明白かつ重大で、法定の是正方法以外の方法による是正を許さなければ納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ許されず(最判昭和三九年一〇月二二日民集一八巻八号一七六二ページ)、本件においては、亡杉浦義孝の死亡により原判決別紙物件目録記載の各土地について昭和四二年一月一四日受付で他の相続人二名との共同相続の登記がなされた後、控訴人は、昭和六二年一二月二二日受付で共同相続人杉浦健璽の持分につき真正な登記名義の回復を原因とする持分全部移転登記をし(乙一号証の一ないし三)、これについて本件贈与税の申告をしたのであって、右事実関係において納税義務が存在しないことが客観的に明白であるとはたやすく認められないところであるが、仮に、確定申告書の記載内容に関する錯誤により国税通則法五四条一項に定める過誤納金の還付請求ができる場合該当するとしても、右のように確定申告が無効とされる場合の納付金の返還請求は国税通則法に定められた更正請求及び減額の更正処分とは別の救済方法として認められるものであるから、錯誤による申告に基づき納税をした日から返還を請求できるものと解される。

したがって、本件における消滅時効の起算日は昭和六三年三月一二日であって、この点に関する控訴人の主張は理由がない。

四  以上によれば、控訴人の本訴請求は理由がないので棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲守孝夫 裁判官 小松峻 裁判官 松永眞明)

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